1話
夕方になり、颯介も山上も帰り支度を始めていた。颯介はまだパソコンの電源を落としてはおらず、メールの返信がないかと気にしている様子だった。
そんな颯介に気付いているのか、山上は声に出さずに笑っていた。颯介も人の事が言えないくらい、むつに優しくそして心配しているようだった。だが、山上はそこまで心配はしていなかった。
一緒に働いているむつが、どのくらいしっかりとしているか知っているからだ。しっかりとはしているが、忙しい日々が途切れると気が抜けてしまったり、投げやりになる。そうなると、とことんな所があり、こちらから連絡しようが返事もない。今回もまた、疲れすぎて投げやりになって、布団から出ずにいるのだろう。明日になれば、けろっとした顔で出社し、一応は謝ってくるだろうと、山上は思っていた。
「心配しすぎだ。明日は来るだろうよ」
「そうですよね」
「ほっといてほしいくらい疲れてる時だって、むつにもあるだろうからな。今日くらい、おおめに見てやってくれ」
颯介は頷くと、パソコンの電源を落とした。そして、マグカップと灰皿を片付けてると、戸締まりをし始めた。山上も一緒に戸締まりをして、カーテンを閉めていった。
「よし、帰るか」
「そうですね。社長、一応鍵は持ち歩いておいて下さいよ?」
一緒に事務所から出て、颯介が鍵をかけながら言うと、山上はぼりぼりと頭をかきながら笑った。