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8話
しばらく悩んだむつだったが、うんと頷くと針金を取り外しにかかった。こんなものがあるとは聞いていなかったが、被せて固定をしてあるだけですぐに外せそうだった。よじってある針金をほどいていくが、手が冷たくなってるうえに風が吹いて身体が震えると、なかなか作業が進まない。いらいらとしながら、何とか外し終えると、蓋をどかしてむつは中を覗きこんだ。常に少しずつの水が流れているからなのか、藻のようなものが付着しているし臭い。確実に滑るんだろうなと思いながら、むつはそれを指で触ってみた。予想していた通り、ぬるぬるとしている。
またしても入っていく勇気がなくなり、むつは中を覗きこんだりしていた。
「…臭そうやなぁ」
真上から声が聞こえて、むつはびくびくっと肩を震わせた。すぐに顔を上げる事も出来ないうえに、金縛りにあったように動けない。
「最悪ですね」
「こん中に入っていくのか?」
「でしょうね。だろ?むつ」
4人分の声と名前を呼ばれたむつは、ようやく顔を上げた。




