8話
「…それは、西原が悪いな」
「そうですね」
山上と京井は顔を見合わせて、うんうんと言っている。人形はそんな2人を交互に見比べると、口元に手を当てるような仕草をした。
「とにかく、むつ。何でもいいから帰ってきなさい。帰ってこれないなら、京井さんが行くって言ってるんだし」
『…何か社長、お父さんみたい』
「年齢的にはそうだからな。いつまでに帰ってくるかは決めておかないとな。あんまり遅くなるじゃ困る。何するかは聞かないでいてやるから…」
『門限か…明日の朝までには帰るよ』
「なら、事務所で待ってるかなら」
『ん…頑張ってみる』
むつの溜め息のような声が聞こえた。だが、それの溜め息は安堵したような溜め息というよりも吐息のようなものだった。
『あのね、彼と一緒に…仕返ししてくる‼』
「…んっ!?」
決意を込めたようにむつが言うと、山上はすぐに反応出来なかったのか、ぎょっとしたように肩を見た。人形は相変わらずのんびりと、くつよいでる様子だった。
『だーってさぁ?あたしも散々な目にあったし、片車輪も襲われたじゃん?ムカつくの。そもそも、片車輪からの相談ってそれじゃん?だからさ、仕事してくるから。片車輪に請求書を回しといて?』
「え…いや?ねぇちゃん?何でそっち方面に話がいくんや?」
『とにかくさ…そういうわけにしといて?』
「むつ…お前、その為に勝手に居なくなったのか?」
冬四郎が聞くと、むつは答えたくないのか返事をしなかった。もう何も話したくないのか、人形はぺらぺらと力なく床に落ちていった。
「みや、ちっと黙っといてやれよ」
山上は溜め息をつきながら、床に落ちた人形を拾うとポケットにしまった。




