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8話
「…なら、帰ってきなさい」
山上が溜め息まじりに言うと、真っ白で顔も何もない人形なのに、山上の方を向いていた。
「今回は、お前がみんなに迷惑と心配をかけたんだろ?こっちは、いいとばっちりだな。仕事にも穴開けて…だから、帰ってきなさい」
『…尚更、帰りにくい』
「だろうな。帰ってきて、みんなに謝って荒れ果てた事務所の片付けをしろ。みやは許さないだろうけどな」
『………』
「迎えに行かせようか?」
『誰を?』
「みや?」
『やだ。怒られるもん』
「なら、私が行きます。というより、その気になれば、むぅちゃん。追い付けますよ?」
『…遥和さん怖い』
「あのねぇ、むぅちゃん?あんな得体の知れない男なんかより、西原さんの方が良いと思いますよ?」
人形は山上の肩の上で、腹這いになり頬杖をついて、ぱたぱたと足を動かしている。
『先輩?キスもしてくれなかったもん』




