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8話
むつと男がリビングの方に消え、何かこそこそと話している気配がしていた。2人とも落ち着きがないのか、じゃりっとガラスを踏む音が時折聞こえてくる。白けた雰囲気の冬四郎と西原は、ずるずるとコーヒーをすすりながら、タバコを吸っているし、山上と片車輪は疲れたようにぐったりた椅子に座っている。京井はむつに何かを作ると言った手前、キッチンに立ち包丁を握っている。とんとんとんっと小刻みな音が、聞こえていたが、ぴたっと止まった。
「…むぅちゃん?」
包丁を置いて、京井はリビングの方に向かって行った。そして、きょろきょろとしている。
「最悪です。むぅちゃん居なくなりました」
「はぁぁ!?」
がたっと立ち上がった冬四郎は、リビングの方に行き割れた窓から外に出た。
「ちょっと、辺りを見てきます」
京井が出ていくと冬四郎も反対方向に走った。ほんのついさっきまで、声がしてガラスを踏む音がしていたのだから、近くに居るはずだと思っていた。




