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8話
「…それは…悪かった」
「悪いと思うなら…ここまで来て」
「今、か?」
「…他にいつがあるの?」
苛ついたようなむつの声に、男は息を飲むように黙った。沈黙があったが、すぐに諦めたのか、じゃりっとガラスを踏んで窓から入ってきた。それを見ていたむつは、満足そうな笑みを浮かべて立ち上がった。男の姿が見えてくると、むつは駆け寄っていった。
男の胸に飛び込んでいくむつを、冬四郎と西原はつまらなさそうに眺めている。完全にかやの外の会話になったり、喧嘩になりそうだったり、仲直りして、めでたしめでたしのつまらない、ラブストーリーでも見せられている気分だった。こさめだけは、口元に手をあてて、わぁと言っている。どこにも感動出来ないし、ただ冷めるばかりだった。
「何か腹立つ…」
「ですよね」
冬四郎と西原は、ちっと舌打ちをしていた。




