485/542
8話
あまり吸わないうちに灰が長くなってくると、冬四郎が灰皿をむつの前に置いた。むつは灰を落として、タバコをくわえたものの、吸いはしなかった。半分も吸っていないうちに、むつは灰皿にタバコを押し付けた。そして、ふいっとリビングの方を向いた。
「…いつから居たの?」
むつが誰に向かって声をかけたのかと、冬四郎たちもリビングの方を見た。
「つい、さっきだ」
「…そう?色々と助けてくれたみたいね。本当にありがとう」
「大丈夫か?」
頬杖をついたままのむつは、嬉しそうに笑みを浮かべていった。だからと言って、立ち上がって声のする方に向かおうとはしない。
「ねぇ、どうしたらいいかな?みんなと居たら、みんなが危ないよね?でも…向こうには行きたくないな」
「…俺が居ると言ってもか?」
「それ言われると…悩んじゃうな」
「来たくなければ、そこに居ればいいだろ?」
うーんと悩むような声をあげ、むつはぺたっとテーブルに頬をつけた。だが、視線だけはリビングの方に向いている。だが、その視線の先には誰も居ない。




