8話
京井が何も言わず、冬四郎もどうしていいのか分からない様子で、ぎゅっと毛を掴んでいるだけだった。その悲痛な姿に、さらさらと吹くそよ風が尚更寂しげだった。かさかさと枯れ葉が鳴り、冬四郎は溜め息と共にしゃがみこんだ。
さくさくと近寄った人影が、冬四郎の横にしゃがみこみ、慰めるように肩を叩いた。冬四郎は鬱陶しいと言いたげに、その手を払い除けた。
「…ごめん、しろーちゃん怒った?」
顔を覗きこまれ、冬四郎は顔を上げた。聞きなれた声に、見慣れた顔。冬四郎は、何も言えずに口をぱくぱくとさせている。
「ちょっとやり過ぎたかなぁ?やり過ぎたよねぇ…ねぇ、ごめんってば。黙ってたのも、騙したのも悪いとは思ってるよ…本当にごめんなさい」
ぺたっと座って、地面に手をついたむつは、何度もごめんと繰り返している。そんなむつの後ろから、犬神の姿をしたままの京井が、顔を擦り寄せている。
「ふふ…くすぐったい。もう…本当にありがと」
むつは振り向いて、京井の首に手を回してふかふかの毛に顔を埋めている。
「…さ、京井さんたち呼んできてくれる?」
西原が居るからか、あえてむつはそう言った。すると、とっとっとと大きな犬は身軽に走り去っていった。
「むつ…むつなのか?むつ…じゃあ…え?あっちに居るのは…」
「ん、あれはねぇ…ま、ちょっと待って。みんなが来てから、順を追って説明っぷ‼」




