7話
離れていく片車輪とこさめを、むつは立ったまま見ているだけだった。うつ向いたむつは口を薄く開き、はぁと溜め息をつくと顔をして上げて、きっと目を細めた。そして、右手に持った刀を一振りし、下段に構えたまま軽やかな足取りであっという間に片車輪に追い付いた。
ちらっと後ろを見た片車輪は、階段の上からぶんっとこさめを投げた。猫であるから、背中から落ちるだけという事は無いが、落ちていきながらむつが片車輪に斬りかかるのを見ていた。 身をよじるようにして、くるっと身体の向きを変えて、両手両足で着地したこさめはすぐに階段の上を見た。力でなら押し負ける事がないのか、片車輪はむつの腕を掴んでいる。むつは相当、力を込めているのかぷるぷると腕が震えている。
右手1本ではどうにもならないと思ったのか、むつは左手に持っていた鞘を捨てた。持ち上げた左手でも柄を握るのかと思ったが、刀を持ち変えた。そして、素早く片車輪の腹を蹴った。踏みとどまろうとした片車輪だったが、かかとが落ちていてバランスを崩しかけている。むつはそれを見逃さずに、左に持った日本刀を適当な感じで振り下ろした。避けよう上体を反らした片車輪の腹を、むつはとんっと押した。
「ひぇ…」
巨体が落ちてくるのを見ていたこさめは、逃げる事も出来ずに片車輪の下敷きになって、ぐえっと呻いた。
「ってて…って、だ、大丈夫かいな?」
慌てて起き上がった片車輪は、こさめの手を引っ張って起こしながら、周囲を見回した。




