7話
退院時に着ていた服に、きちんと靴もはいている。三つ編みにした長く、黒々とした髪の毛はマフラーのように首に巻いてある。
「むつ!!良かった‼危ないから一緒に下に」
こさめがむつの手を取ったが、むつはその手を払い除けた。払い除けられたこさめは、不思議そうにむつを見ていた。
「…むつ?」
むつの左手には冬四郎の車のトランクから出してきた日本刀が、しっかりと握られている。むつは何も言わずに、片車輪とこさめを交互に見ると、右手を柄に添えた。1階では窓ガラスの割れる音と、多くの足音が聞こえてきていた。このまま、ここにいても危ないのは、十分に分かっている。
「むつ!!行くよ‼」
動こうとしないむつに焦れたのか、こさめが再びむつの手を取ろうと手を伸ばした。それと同時に、ちゃっと金属音に聞こえ、片車輪が腕を伸ばしてこさめの襟を掴んで引っ張った。
ぐいっと後ろに引っ張られたこさめの目の前を、ひゅんっと風は横切っていく。何が起きたのか、こさめにはすぐに分からなかったが、むつが刀を抜いた事だけは分かった。
「…くっそ」
片車輪はむつに背を向けながら、こさめの腹に腕を回して担ぎあげるようにすると、どたどたと廊下を走り出した。こさめは、驚いたような顔をしたまま、むつを見ていた。




