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7話
険しい表情の冬四郎は、血の気を失ったように白い顔をしたむつをしばらく腕に抱いたままだったが、目を覚ますような気配がないと分かると、そっとベッドに横にさせ布団をかけた。首まで隠れるように布団を引っ張りあげ、冬四郎はすぐに部屋から出た。
この事を誰かに話すべきなのかと悩んだ冬四郎は、階段の前で立ち止まった。記憶が戻りつつあるのだとしたら、喜ばしい事ではあるが、なぜ泣いたのか、何を伝えようとしていたのか。目が覚めた時、むつは以前通りのむつなのか。冬四郎のあれこれと考えていたが、結局結論は出ない。溜め息をつきながら、階段をおりてリビングに入った。1日同じ家で過ごしていたこさめと片車輪が、心配そうな顔をして冬四郎を見た。
「…大丈夫ですよ。疲れてるみたいです」
冬四郎の言った嘘をどう受け取ったのか、こさめも片車輪も何も言わずに頷いただけだった。どれだけ心配してくれているのか分かった冬四郎は、むつの記憶が戻りつつある事を言おうかと思った。だが、次にむつが目覚めた時に、記憶が戻っていなけれぱみんなを落胆させるだけだと黙っておく事にした。




