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7話
むつが急に泣き出した理由が、全く分からない冬四郎は困ったような顔をしていた。むつは涙を拭って、鼻をすするばかりだが、何かを言いたそうに口を開いたりはしている。
「…て、くれるっ?」
「ん?」
「しんじ、て…くれるっ?」
「何をだ?」
「時間が…いっ……て、ま…て、て……だ、もど…い、と…」
途切れ途切れに言いながら、むつは苦しげに胸を掴むようにしている。泣きながら話しているから、苦し気とは違う。何かに苦しむようなむつは、呻くような声をあげ、冬四郎を見上げた。
冬四郎は久しぶりに、むつの顔をしっかりと見たような気がしていた。むつは目を反らさずに、冬四郎を見ている。
「し、ろ…ちゃ…」
「むつ?お前…記憶が」
ぎゅっと胸を押さえつつ、むつはふっと笑った。そう思ったら、目を閉じてぐったりと冬四郎の胸にもたれた。




