7話
何を考えていたのか、しばらくは身動きもしなかったむつだったが、布団から出てくると冬四郎の胸に顔を押し付けて、腰に手を回した。
「…むつ?」
両手でしっかりとシャツを握って、むつは離れようとはしない。何も言わずに、顔を押し付けているだけだったが、すんっと鼻をならした。冬四郎は身体の向きを変えて、むつの背中と頭に手を回した。
「何、泣いてるんだ?何か、嫌な事でもあったか?」
むつは何も言わない。顔も上げようとはせずに、鼻をすすってしゃくりあげるだけだった。ぽたっとスラックスに水滴が落ちると、冬四郎はむつを落ち着かせようと大きな手のひらで何度となく頭を撫でていたが、むつは泣き止まない。それどころか、ぼろぼろと涙を流して嗚咽を堪えていた。
「顔、上げられるか?」
出来ないというように、少し首を振ると冬四郎は身を引くようにしてむつから少しだけ離れた。むつはうつ向いたままで、シャツから手を放すして手の甲で、ごしごしと目元を拭っている。
「そんなにしたら、赤くなるだろ」
冬四郎はその手を取って、下におろすとその代わりに、自分の指でむつの目元から涙をすくった。
「何か言えない事でもあったか?それとも…思い出した事でもあったのか?」
はっとしたようにむつは顔を上げたが、またすぐに伏せた。その反応からして、むつの中で何かがあった事は確かなようだった。
「…聞いて悪かった。けど、何も言ってくれないと俺にもどうにも出来ないぞ?京井さんとか西原君の方が話しやすいなら…呼んでこようか?」
「…いい、いいからっ…」




