7話
西原は、くるくると袖をまくると手を洗ってむつと京井にまじって朝食の支度を手伝い始めた。むつは京井に指示された事を、のんびりとだが的確にこなしている。本当に普通の生活をするには、何の影響もないようだった。そんなむつの姿を見ていると、いつもと何ら変わりないようだった。
「…さん、西原さん?お魚、焦げてます」
「えっ‼あ、やべっ‼こ…これ宮前さんのにしよ」
むつに名前を呼ばれた西原は、焼いていた鮭を慌てて引っくり返したが、だいぶ黒く焦げていた。
「お前が焦がしたんだろ?」
「あ…」
「西原君の足音、うるさかったぞ」
「すみません」
起きてきた冬四郎は、大きな欠伸をしながら、キッチンに立つむつを見て笑みを浮かべた。
「あ、おはようございます。お兄さん」
挨拶は、はっきりと言ったものの、大きなと呼ぶ声は恥ずかしそうで消え入りそうなくらいに小さかった。冬四郎はそんなむつと西原を交互に見た。西原は、菜箸を片手にぶんぶんと顔を振っていた。
「…変な事、されなかったか?」
「してませんから‼」
冬四郎が確認するようにむつを見ると、むつは少しうつ向き加減に頷いた。
「けど、何もしなかったわけじゃないって事か」
「ダメですよ。西原さん。むぅちゃん、まだ体調だって完全によくなったわけじゃないんですからね」
京井にまでそう言われ、西原は笑うしかなかった。




