7話
翌朝、目を覚ました西原は隣にむつが居ないと分かると、慌てて飛び起きた。ばたばたと階段を駆け下り、電気のついているキッチンに入った。
「大変ですっ‼むつが…」
「…おはようございます。むぅちゃんでしたら、こちらに…」
包丁を手にしていた京井が笑みを浮かべながら、身体の位置をずらした。大きな身体に隠れて見えなかったが、京井の横にはむつが立ち、菜箸を片手に真剣な表情を見せている。
「…何してるんですか?」
「朝ご飯の支度ですよ。むぅちゃんには卵焼きを作って貰ってます」
「そ、そう…ですか」
呆然とした様子の西原だったが、むつが真剣に卵焼きを返していく姿を見て、ほっとしたように息をついた。
「京井さん…出来ました」
「ありがとうございます。ちょっと…破けてますが…まぁ味に問題はないでしょうね」
「…きっと宮前さんは嫌がりますよ」
卵液の入っていたボールの近くに、砂糖の入れ物が置いてあるのに気付いた西原は、くすくすと笑った。
「むつ、熱は良いのか?」
「はい…たぶん、大丈夫です」
洗い物をしながら、むつは微笑むようにして言った。最初の時に比べて、むつの表情が柔らかくなってきた事を、西原は嬉しく思っていた。




