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7話
「どうした?また気持ち悪いのか?」
むつは、ゆるゆると首を振った。はぁと息をついて、ゆっくり呼吸をしようと心掛けているように見える。
「…呼んでる」
「誰が?」
答えないむつは、きゅっと西原のズボンを握った。その手が微かに震えているのに気付いた西原は、包み込むようにしてむつの手の上に自分の手を重ねた。氷のように冷たいむつの手は、それでも細かく震えている。
はっと顔を上げたむつは、目を見開いている。そして、振り向くとがばっと西原に抱き付いた。
「お…おい、むつ?」
「……て」
「え?」
「ぎゅって…し、て?」
か細く泣きそうに震えた声を聞き、西原はちらっと冬四郎を見た。冬四郎は知らん顔するように、立ち上がるとキッチンの方に向かっていった。気を使わせたんだなと思いながらも、西原はむつの背中に手を回した。服越しでも冷たくなっているのが分かる背中を、優しく撫でていると落ち着いてきたのか、むつの震えも収まってきて、はぁと息をついていた。




