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7話
冬四郎が声をかけると、むつはゆっくりと振り向いた。寒いせいか、唇は紫色になっている。無表情に、冬四郎を見ているむつは微動だにしない。様子がおかしいと片車輪が言っていたが、何となく近寄り難い。
「むつ…?」
「…出して」
「え?」
「あたしの、刀…」
はっきりした声は、いつものむつに近い物を感じたが、抑揚もなく機械的だった。それに、何で車の中に日本刀が入っていると、むつが知っているのかと思い、ぞっとした。
「出して」
「…分かった。鍵取ってくる」
鍵を取りに玄関に戻った冬四郎は、腕にびっしりと立った鳥肌を撫でた。むつが怖いと思ったのは、これが初めてだった。今まで何度も、能力を使う所を見てきた。それが、どんなに強力な物かも知っているが、それでむつを怖いと思う事は1度だってなかった。それなのに、今はたった一言投げ掛けられただけで鳥肌が立ち、側に居たくないと思っていた。
冬四郎が戻ると、むつは車の側から離れずに待っていた。無機質で冷たい目で、冬四郎の動きを追っている。




