1話
冬四郎は通話を終え、京井と片車輪を追った。昼を少し過ぎた時間だからか、買い物帰りの主婦や子供たちの声で賑わっている。だが、夜になるとほとんど人が通らなくなる事を冬四郎はよく知っていた。
「宮前さん」
「どうしました?」
「臭いが途切れました。申し訳ないですが、これ以上は臭いでは追えません」
「いえ、こっちの方向ってだけでも分かれば。あとは地道な聞き込みをしていくしか…」
そう言いかけて、冬四郎は口をつぐんだ。京井と片車輪も冬四郎が何故黙ったのか、察したのかもしれない。
「視線を感じますね」
「えぇ…今まで気付きもしませんでした」
「あのねぇちゃんを探してるってのを知ってて、見張られてんのか?」
「可能性はあります。って事は、2人が人じゃないのも知られてるでしょうね…京井さん、むつの部屋に残ってた臭いと同じ臭いってしますか?」
冬四郎が何を知りたいのか分かった京井は、大きく深呼吸をした。すいっと目を細めると、軽く頷いた。
「犯人に見張られてたって事か…」
「そのようです。もしかしたら、マンションの近くでずっと見張っていたのかもしれませんね。どうしますか?今なら捕まえられない距離でもないと思いますが」
「いや、相手が何を持ってるか分からない。それに昼間っから、住宅街で暴れられるのは…」
「そうですね。でも、これで囮役にはなれてますから…そのうちに向こうからの接触もあるでしょうね」




