7話
「…だ、大丈夫ですから」
消え入りそうな声でむつが言うと、西原は心配するように、ますます顔を近付けた。
「いや、大丈夫じゃないだろ。熱計るか?」
むつは嫌々をするように、ぶんぶんと首を振って西原の手から逃れた。冬四郎に寄り掛かるようにして、両手で頬を押さえている。
「…そんなに、俺が嫌か」
逃げられた事にショックを受けたのか、西原はホットワインを一口飲むとタバコを吸い始めた。むつは頬を押さえたまま、その仕草をじっと見ていた。そして、困ったように冬四郎を見上げた。冬四郎はむつの耳元で何かを囁いた。
少し悩むような様子を見せたむつだったが、きゅっと唇を引き結んだ。意を決したように、ついと西原の袖を引っ張った。西原が振り向くと、むつはもじもじとしていた。
「…あ、あの…は、はい…だから、その…ご、ごめんなさいっ‼」
「え…え?ま、待った…えぇ‼ちょっと…嫌?嫌なの?お、俺フラれたっ!?」
あわあわとしている西原を見て、むつは困ったようにしているが、その横では、吹き出して肩を揺らして笑っている冬四郎が居た。
「…あ‼ちょっと、宮前さん‼むつ!!宮前さんに言えって、言われたな?お前…素直に言う事聞きすぎだよ」
きょとんとしたむつは、再び西原に頬を触られても嫌がる事はなかったが、やはり顔を赤くしていった。




