7話
祐斗やこさめ、片車輪の前には茶碗に盛られた飯があったが、むつの前には粥があった。それを一口ほど食べたむつは、そこからは箸をつける事はしなかった。
「もう、いいんですか?」
「…はい。ごめんなさい」
「良いんですよ、気にしなくて。お兄さんの所に行って、お薬貰って飲んできてくださいね」
頷いたむつは、立ち上がると冬四郎の所に行った。冬四郎は、ちらっとテーブルの上を見た。ほとんど手付かずの状態で粥やおかずが残っている。仕方ないかと思い、冬四郎は藤原から渡された薬袋から錠剤の薬をむつの手に乗せた。
「んー胃薬いるか?胃痛い?」
ゆるゆるとむつは首を振った。冬四郎から水を受け取ったむつは薬を飲むと、ごくごくと水を飲み干した。
「…ありがとうございます」
「あ、ちょい待て。ついでに熱計るか?何かまた顔赤くなってきてる」
京井の方に戻ろうとしていたむつを引き止め、冬四郎は自分の膝にむつを乗せた。座らされたむつは大人しく、体温計を脇に挟むと鳴るのを待っている。
「何か、こうして見てると親子だな」
氷の入ったグラスに酒を足しながら、山上が言うと、颯介、西原、篠田が頷いた。
「むつ、俺の膝にも座るか?」
山上が自分の太ももをぽんぽと叩いたが、むつは何とも言えない嫌そうな顔をしただけで、助けを求めるように冬四郎を見た。
「嫌がってますね」
「じゃあ、俺は?」
西原がタバコを片手にしたまま、むつに手を差し伸べると、むつは少し顔を赤くしてうつ向いた。
「えぇ、俺は嫌で西原だと恥ずかしいのか?」
「おっさんとお兄さんの違いでしょうかね」
のんびりと酷い事を言いながら、颯介はくいっと酒を足しながら呑み干して笑っていた。