7話
篠田に注意されると、こさめはぺろっと舌を出しただけで、むつを引っ張ってぱたぱたと風呂場に向かっていった。
「西原君、大丈夫かい?」
「あ、大丈夫ですよ。こさめさんがむつと一緒になら、問題なさそうですね」
本気で一緒に風呂に入る気はなかったのか、むつが落としていった毛布を拾うと畳んでソファーの上に置いた。
「京井さん…むつは窓から出ていったんですか?」
「えぇ。小窓から飛び降りたみたいです」
今のむつなら、そんな事はしないだろうと思っていた冬四郎は、舌打ちをした。やはり、記憶がないとしても、むつはむつだという事を改めて思い知らされた気分だったのだろう。
「…ここなら、大丈夫とは思うが…むつは突然、何するか分からないからな。やっぱり付きっきりで見てないとダメかもしれないな」
山上が呟くように言うと、同感なのか冬四郎も京井も頷いていた。
「ですが…もう1人では外に出ないと約束してくれましたけど」
「京井さん、それ信じられますか?」
「いや…どうしでしょう」
冬四郎は、最初から信じてないような口振りであったし、約束と指切りをした京井にしても信じたい気持ちはあっても、とても信じられるとは言い切れなかった。