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7話
むつは鈴を手のひらに入れるようにして、握り締めながら京井の首に腕を巻き付けるようにして抱き付いた。
「む、むぅちゃん…?」
「………」
「どうしました?」
「戻りましょう…」
「…そうですね」
京井はむつの背中に手を回して、落ちないようにしつつ、家に向かって歩き出した。背が高い分、歩幅も大きく、揺れる。むつは落ちないように、尚更に京井にぎゅっとしがみついていた。とても、回りを見るような余裕などはなかった。
「むぅちゃん…今は色々と話してくれて、私は嬉しく思ってますよ。遠慮や気遣いなどせずに…もっと沢山、何かあれば言ってくだいよ?ね。お兄さんもそう思ってらっしゃいますから」
「………」
「お話するのは苦手ですか?」
「…知らない人ばっかりですし…でも、みなさんは私の事知ってますから」
記憶のないむつからすると、知らない人に自分を知られている事が怖い事でしかないようだった。
「そうですね…」
「…京井さんは…犬なんですか?」