7話
「まだ呼ばれてる感じしますか?」
「しない、かな…?」
「…それなら、戻りましょう。また熱が上がったら病院に戻らなきゃいけなくなりますよ」
京井は険しい表情を浮かべ、さっと辺りを見回したが何かありそうな気配はない。
「それに窓から出るなんて…女の子のする事じゃありませんからね。さ、宮前さんに見つかる前に戻りますよ」
むつは首を傾げながら、京井を見上げている。その仕草は子供のようで、悪気も何もなく、呼ばれたから出てきた。本当にそれだけのようだった。
「…はい」
しょんぼりとしているむつを軽々と抱き上げると、京井は来た道を戻り始めた。背の高い京井の肩に掴まりながら、むつは少し嬉しそうに辺りを見回している。
「…少し、遠回りしましょうか?寒くないなら、ですけど」
「…いいんですか?」
「その代わり、次から外に出る時には私に声かけてくれますか?あと、外に出た事はお兄さんにも言わないように…約束出来ますか?」
こくこくとむつが頷くと、京井は小指を差し出した。むつも小指を差し出して、指切りをした。むつの小指の鈴が、りんりんっと鳴っていた。だが、その音がやけに反響していた。むつはその反響の大きさに、びっくりしているような顔をして、京井から小指を放すと鈴を握りしめたが、鈴は鳴りやまなかった。