7話
「あ、分かります、分かります…へぇ、意外と近くに住んでらしたんですね」
冬四郎は車を走らせながら、むつにタバコとコーヒーを出すように言い、後ろに座っている京井にもコーヒーを渡すように頼んだ。むつはシートベルトを少し緩めて、振り向くと京井にコーヒーを渡した。京井が礼を言うと、むつはこくっと恥ずかしげに頷いた。冬四郎にはフィルムをはがしてからタバコとコーヒーを渡した。
「お前のは、ココアな。飲みすぎるなよ?昼飯、入らなくなると困るからな」
「…はい」
冬四郎は器用に片手でタバコを出してくわえると、火をつけて吸い始めた。少しだけ開いている窓からの煙が出ていくのをむつは見ていた。だが、冬四郎が買ってきたココアにストローをさして、ちゅうちゅうと飲み始めると、ほんのりと笑みを浮かべていた。
「好みは変わらないんだな」
「………?」
むつが笑みを浮かべた事に気付いた冬四郎が言うと、むつは首を傾げた。
「甘い物、好きだろ?男の趣味もなぁ変わってくれたら、お兄ちゃん喜ぶんだけど。どうだ?」
ぼやく冬四郎をむつは不思議そうに見ているだけだったが、後部座席の京井はくつくつと肩を揺らして笑っていた。