7話
「かなり、あっさりでしたね」
「えぇ…良いんですかね、こんなんで」
むつが着替えている間、廊下に出ている冬四郎と京井は肩を並べて立っていた。
「大丈夫ですよ」
「本当ですか?」
冬四郎の横には藤原も立っていた。身長だけなら、京井にも負けを取らない高さで冬四郎も背は高い方のはずなのに、間に挟まれると少し小さく見える。
「大丈夫です。脳に何かあったわけでもないので…記憶の方は、自分で押さえつけているんでしょうね。よほどに、嫌な目にあったんだと思います。なので、このまま室内に閉じ籠っててもよくありませんから。身体の方は弱っていても、健康を損ねる物ではありませんし。きっかけ次第で記憶は戻りますよ…それが、むつさんに取って良いかは僕には分かりませんが」
「そうですか…」
「それから、薬物は特定は無理ですね。警察にサンプルを送れば何か分かるかもしれませんが…」
「それは…しなくていいです。ただ、どんな物かっていうのは分かりましたか?」
「どんな物…麻酔薬の一種ですね。麻薬に近い物だとは言えます。それを多量に投与されたんでしょうね。あの注射痕からして、自分で打ったとは考えられません。まして、むつさんが…ですので、血液に反応があった。この先、幻覚や幻聴が中毒症状、所謂、薬が切れると…ってやつが起こる可能性もありますので、注意は必要です。完全に抜けてしまえば大丈夫とは思いますが」
藤原はすらすらと説明をすると、白衣のポケットから封筒を取り出した。
「請求書とカルテです。サンプルは破棄しましたので。ま、検査の時にまた採れば良いので…と、お支払はいつでも結構です。それから、熱冷ましと一応胃薬です」
冬四郎にそれらを押し付けると、藤原は頭を下げてお大事にと言って去って行った。