6話
朝食に出された粥をどうにか、一口、二口と食べたたが、もういらなくなったのか、スプーンを置いた。冬四郎も京井も頑張って食べろとは言わずに、薬を飲むように渡した。その後で、藤原が朝の検診にやってきた。熱、血圧を計り、簡単にいくつかの質問をしただけだった。
「ふむ…熱、ちょっとだけ下がりましたね。点滴をもう1度しておきましょうか…お薬は引き続き出しておきますね。と、むつさん?」
名前を呼ばれたむつは少し緊張したような面持ちで、藤原の方を見ている。
「退院したいですか?検査結果に異状は見られませんでしたし。血液の方だけは、もう少し時間は必要かもしれませんけどね、うん…食欲はあまりなくても、戻す事もないみたいですから。その辺は、ゆっくりと身体に合わせていけば良いですし…どうしますか?」
ぺらぺらと藤原に喋られて、むつは混乱しているのか、瞬きを繰り返すばかりだった。
「じゃあ、点滴終わったら一旦退院という事で。熱が…そうですね、今は38度まで下がってますが、40度越えたらまた戻ってきてください。夜中の場合でもお電話頂けたら対応いたしますので」
むつの返事を待たずに、藤原はそう言った。
「はい。じゃあ、むつさん退院ね」
藤原はそう言うと、むつの両頬に手を伸ばして触ると、むにむにと押した。むつは怒る事もなく、呆然とされるがままになっていた。