6話
話し声に反応したのか、むつがもぞもぞと身動ぎをした。冬四郎と京井は、ぴたりと喋るのをやめて、そっと様子を伺っていた。息を潜めるようにしていたが、むつは目を覚ましてしまったのか、ゆっくりと起き上がった。薄暗い部屋の中を見回し、京井に視線を向けていた。
「いぬ…?」
京井は、どきっとしたように咄嗟に冬四郎の方を向いたが冬四郎はぶんぶんと顔を横に振っている。何も言っていないし、犬には見えないという事だろう。
「むつ…?どうした?」
「…おっきい…いぬ、がいる」
寝惚けているのか、むつはそう言うと京井に向けて手を差しのべた。おいで、という事のようだった。どうしようもなく、京井はのろのろとむつの側に行った。するとむつは、身を乗り出して京井の首に腕を回すようにして抱きついた。頬をすりすりと首に擦り付けながら、ぽすんっと京井を引っ張りながらベッドに倒れこんだ。そして、そのまま目を閉じると、すぅすぅと寝息を立て始めた。
むつの顔の横に肘をつく格好になっている京井は、困ったように冬四郎の方を向いたが、どうする事も出来ない。出来た事は、せめて座れるようにと椅子を近くに持って行く事だけだった。