6話
山に囲まれてるという事は、民家や人も少ないのだろう。山上がわざわざ別宅にと言ったのは、むつが暴れたり、襲撃にあったりしても人に迷惑にならないからだろうと、冬四郎は察しがついていた。
「そうですか」
「えぇ。あ、そうそう…むぅちゃん、これなんですけどね。湯野さんと谷代君がむぅちゃんにって買ってきたんですけど」
京井が紙袋を差し出すと、むつは自分の為にと言われ興味がわいたのか、紙袋を受け取ると、ちょこんっとベッドに座った。かさかさと袋を開けると、中からはまたしてもルームウェアが出てきた。今度のは長ズボンの物だった。あとは退院時に着るようなのか洋服と靴が入っていた。
「気に入りそうですか?こっちは何を買ってきたんでしょうね…谷代君が絶対に必要だって言ってましたよ」
小さめの可愛らしくリボンのついた紙袋を京井から受け取ったむつは、そっと中身を取り出した。プレゼントを貰った気分なのか、ほんのりと口元に笑みが浮かんでいる。
「…何が入ってるんだ?」
そんなむつの様子に、冬四郎と京井も中身が気になったのか、覗きこんでいた。
「あ、リップクリームとボディクリーム…確かに、必要ですね。乾燥する時期ですから」
「確かにそうですね。ふーん?色付き?むつ、試しに塗ってみたらどうだ?」
冬四郎に言われて、むつは淡いピンク色のリップクリームを唇に塗った。血色が悪く青白い肌ではあるが、口元がうっすらと色付くと少し顔色も良さそうに見えた。
「良いですね、可愛い色ですし」
京井がすかさず誉めると、むつはうつ向いたが、それが恥ずかしくてした仕草なのが分かっている2人は、ほっとしたように顔を見合わせた。