6話
検査は滞りなく済んだのか、1時間もしないうちに、藤原に伴われてむつが戻ってきた。だが、むつは入っていった時よりも、眉間に深いシワを刻んでいた。
「あはは…すみませんね。台から降りた時によろめいて、むつさん転んじゃって…もう少し下げたら良かったんですが…むつさん、ごめんね」
「あ、そうだったんですか…大丈夫か?」
藤原が頭をかきながら謝ると、むつは頷いただけで、すぐに冬四郎の元に戻っていった。
「夕食に、お粥出しますけど…無理に食べさせたりしないでくださいね。けど、水分はきちんと摂らせてください」
「分かりました。さ、むつ戻ろうか」
冬四郎が差し出した手をむつは素直に取り、ぺたぺたとゆっくり歩き出した。病室に戻ると、室内には京井しかいなかった。むつは何か探すように、きょろきょろとしている。
「あれ、京井さんだけですか?」
「えぇ。西原さんは署に1度行くと言ってましたよ。山上さんは片車輪と篠田さんとこさめさんを連れて、掃除に行くと…湯野さんは外せない仕事で谷代君は明日こそ授業に出ろと怒られながら帰って行きました」
「掃除、ですか?」
「えぇ、むぅちゃんが退院出来るならマンションより山上さんの別宅の方がゆっくり出来るだろうって事で。山に囲まれてますから静かに過ごせますし」