1話
冬四郎はじっと動かなかった。だが、ふいに立ち上がると風呂場から出ていった。京井が耳を澄ませていると、玄関の方に冬四郎は向かったらしい。おそらく、山上に報告に行ったのだろう。京井はゆっくりと立ち上がった。
風呂場を眺めていると、ひょこっと後ろから片車輪がやってきた。髭面にしかめっ面が浮かんでいた。
「血の臭いだ。あのねぇちゃんの」
「分かるんですか?」
「前に関わった時に、ねぇちゃんの血の臭いを嗅いだんや。ちょっと…個性のある臭いやし覚えとる」
片車輪はそう言うと、風呂場をぐるっと見渡した。だが、京井ほどの嗅覚があるわけでもなく他に何が分かるというわけでもなかった。
「人間の仕業と思えるか?」
「どうでしょうね…同類なら臭いが残る気もしますけど。人間の臭いしかありませんよ」
「そうか…でも、あのねぇちゃんがそんな易々とやられるか?ましてや玄関で襲われたってなると、後ろからついてきてたか、待ち伏せくらいしかないやろ?」
「防犯カメラは警察も回収してると思いますし…何か分かるんじゃないでしょうか。所で…むぅちゃんと遊ぶ約束でもしてたんですか?」
「あんた…知らんのか?犬神さんは強いから無関係って事なのかも知らんけど」




