6話
「むつは、寝たか?」
「えぇ。すみませんが、京井さん…むつの側に居てやって貰えませんか?」
「えー?こさめは?」
「それなら、こさめさんも一緒に。むぅちゃんの部屋に行きましょうか」
すくすくと笑いながら、京井はこさめと一緒にむつの病室に向かっていった。冬四郎もにこやかに、2人を見送ったがすぐにその笑みは消えた。
「記憶は全くないのか?」
2人の背中が見えなくなると、山上は前置きもなく口を開いた。
「…みたいですね。自分の名前は分かってるみたいです。だから、搬送先の病院で名前を言えたんだと思いますが…」
「…生活には支障なさそうだが。記憶がないふりをしている可能性は?」
「無いとも言い切れませんが…」
「だとしたら、かなりの女優ぶりですね」
篠田が感心したように言うと、冬四郎は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「とにかく今は警護の目を緩めない事だな。退院とかはすぐに出来るのか?それなら住む場所を…」
検査の結果次第では、退院もすぐには出来るのかもしれないが、むつの部屋は荒らされ放題で、片付けも何もしてない。いくら自宅だからと言っても、そこに帰らせるわけにはいかない。
「それは…京井さんのホテルでも、うちでも良いかと思いますが」