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6話
きゅっと冬四郎のジャケットの袖を握って寝てしまったむつの為に、冬四郎はそっとジャケットを脱いで布団の上からかけて、音を立てないようにそっと部屋から出た。
廊下には西原が1人だけ立っていた。
「寝ましたか?」
「寝た寝た。他の人たちは?」
「談話室の方に行ってます…って、上着忘れてきたんですか?」
「いや、袖持ったまま寝たから置いてきた」
「…兄弟仲良しで羨ましいですよ」
西原が拗ねたように言うと、冬四郎は少し首を傾げた。
「西原君の事…満更でもないみたいだったよ」
少し励ますつもりのくらいで冬四郎が言うと、西原はすぐにぱっと笑みを浮かべて嬉しそうな顔をした。言ってから冬四郎は少しだけ後悔もした。だが、西原はすぐに笑みをしまうと、談話室の方に行きましょうと先に立って歩き出した。
廊下の端に設けられている談話室には、自動販売機なども設置されており、開放的なスペースになっていた。幸いにも、人はおらずむつの病室から出た面々だけが居た。