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6話
「むつ、あのな、俺ら付き合ってるんだよ」
「えーっ‼」
「どさくさに紛れて何言ってんだよ‼」
こさめに殴られてもめげない西原は、素早くむつの手を取り真面目な顔で言うと、祐斗の批判めいた声と山上が突っ込みが入っていた。むつは、きょろきょろとしているだけで、何も言わない。だが、冬四郎の姿を見付けると、じっと見つめていた。
「…いや、2人の事だから」
「ほら‼お兄さんの許可も出た‼」
「いや、許可しない。それより、むつ寒いだろ?山上さんが服買ってきてくれたから着替えるか?」
冬四郎は西原を押しやり、こさめの横に座ると広げられている服を手に取ってむつに見せた。
「山上さん?…あ、あの、お兄さん…?」
お兄さんと呼ばれた冬四郎は、山上の方を振り返った。西原ほどではないが、隠しきれない微妙な笑みが浮かんでいた。
「お前らは、バカか」
「いや、いや…すみません。むつ、こちらが山上さんで、むつの勤めてる会社の社長さんなんだよ」
冬四郎が説明すると、むつは少しだけ布団を下ろして山上に会釈をしてみせた。なぜか、山上も恥ずかしそうにぺこぺこと頭を下げていた。