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6話
「やな、やつ」
ちっと鋭く舌打ちをした京井を西原が、意外な物を見るようにして見ていた。冬四郎も何となく、面白くなさそうな顔つきをしていた。
3人共が、ふて腐れたような表情を浮かべている所に、複数の足音が聞こえてきた。控えめなノック音がし、すぐにドアが開いた。ノックはしたが、返事など待っていられない。そんな様子だった。ぱたぱたと入ってきたのは、黒髪にほっそりとした身体の女だった。ベッドに駆け寄ると、むつの顔をすぐ間近で確認している。
「こさめ、やめなさい」
やんわりとした口調ではあったが、言った本人もすぐにでも、むつの顔を見たい様子がありありと浮かんでいた。
「篠田さん、わざわざ来て頂いて…」
冬四郎は後から入ってきた篠田に頭を下げ、こさめと呼ばれた女にも、ありがとうと伝えた。
「むつ、熱あるわね…葱巻く?」
「え、いやー?病院だし葱巻かなくても大丈夫じゃないかと思うけど」
西原がくすくすと笑いながら言うと、こさめはそっかとこだわりなく言い、近くにあった椅子を引き寄せると座った。