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6話
「むつは記憶がないみたいだな…」
男はむつの額に手を置いた。むつな熱が高いせいか、はぁはぁと荒い呼吸をしている。
微かに頷いた男は、何を思ったのか、ばっと布団をめくった。3人が驚いてる中、男はむつの手をそっと壊れ物でも扱うように、優しく取ると小指に付けてた鈴を軽く振って鳴らした。りんりんっと小刻みに音が響いた。静かな病室に、小さな鈴の音とは思えない程によく響いている。その音は、だんだんと大きくなっていくようだった。
「その鈴…やっぱり…」
京井が鼻の頭にシワを寄せて、歯を剥き出すようにして男を睨んでいた。
「…耳ふさいでおけ」
ちらっと京井を見た男はそう言った。すでに、鈴を振ってはいなかったが、音はまだ止むことなく、室内に反響するように響いている。
ゆっくりと音が小さくなると、むつの呼吸も楽になったのか、くぅくぅと穏やかな寝息になっていた。