6話
「それで、叫んだんだ。そこからは、西原君と京井さんが見てた通りだ」
「そうだったんですか…何がきっかけになったのかは分からないですが、やっぱりフラッシュバックしたって事でしょうか」
西原が伸び放題になっている髭を触りながら言うと、冬四郎と京井は頷いた。
「余程の目に合ったという事ですね…何にしても、今のむぅちゃんに必要なのは休息ですね」
「えぇ…身体より心が弱ってますからね」
3人は、そっとむつの寝顔を見た。血色は悪いが、苦しそうでもなく今はすやすやと眠っている。
「…病院、移した方が良いな」
何を思ったのか冬四郎がそう言うと、京井はこくりと頷いた。
「危ないですね。むぅちゃん…無意識のうちに、力を使いそうですし…ペットボトルを素手で切るなんて…」
京井が言うと、冬四郎がなぜ病院を移そうと決めたのか西原にも分かった。暴れたむつは、ペットボトルを半分ほど切るように壁に叩き付けたり、冬四郎にも怪我をさせたりしている。普通の人であれば出来そうにもない事をむつは難なくしてのけている。それも意識してやっていたようには見えない。ただ、出せる限りの力を出してしてしまった結果だというだけの事で、本人には悪気はない。だが、何も知らない周囲にかかる危険などを考えると、むつの事を理解している場所に移しておいた方が、むつも周囲も安全さではありそうだった。