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6話
「むつ…?」
冬四郎がむつを仰向けにさせると、すでに身体に力が入らないのか、くったりとしていた。ゆっくり目を閉じていき、むつの首が、がくんっと揺れた。
「鎮静剤を打っただけですから、大丈夫です」
医者が落ち着いた声で、言うと冬四郎はそうですかと答えむつの頭を枕に乗せてやった。そして、少し処置をするからと冬四郎たちは廊下に出された。警官は何事もなかったかのように、再びドアの前に立ち職務に戻った。
病室から少し離れた場所で、壁に寄りかかり冬四郎は、深い溜め息をついていた。
「あの、宮前さん…」
京井が申し訳なさそうな顔をすると、冬四郎はゆるゆると首を振った。
「助かりましたよ。ありがとうございます…俺だけじゃ押さえ付けてられませんでしたから」
「いえ…傷、大丈夫ですか?」
自分の頬を指で指しながら京井が言うと、冬四郎は不思議そうにしつつも自分の頬に触れてみた。ぬるっとした液体が指先に触れた。冬四郎は指についた赤い血をみて、困ったように笑うしかなかった。
「大丈夫です、大丈夫です」