6話
「おわっ…」
急にむつの手から力が抜け、拍子抜けした冬四郎はむつの手を放していた。だが、その手がすぐに冬四郎の頬をかすめた。ちりっとした痛みと後ろに引っ張られた感覚に、冬四郎が驚き振り向くと京井が立っていた。京井は、ぱっと冬四郎の襟首から手を放すとすぐにむつの両手を押さえた。ベッドに縫い付けられるようにして、押さえられむつはどうにか引き抜こうと、かかとでベッドを押しながら後ろに体重をかけている。
「むぅちゃん、腕が…」
京井の心配をよそに、むつはふぅふぅと息を荒くつきながら手を引き抜こうとしている。
「…ごめんね」
ばたばたと廊下を走る音が聞こえてくると、京井はむつに謝った。そして手をぱっと放すと同時に、むつの後ろ襟を掴んで引き倒した。難なく、両手を取り後ろ手にさせるとそのまま押さえ付けた。
頭を左右に振り、足をばたつかせているが流石に犬神である京井の力には敵わないようだった。むつは横を向き、髪の毛の隙間から京井を睨んでいる。
「あ…」
必死の形相で京井を睨むも、目からはぼろぼろと泪が流れているのに気付いた京井だったが、力を抜いてやる事は出来なかった。
ようやくやってきた医者が、押さえつけられているむつの腕に注射を刺した。むつの身体から、だんだんと力が抜けていくと京井はむつの手を放した。