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6話
点滴が終わると、冬四郎はむつを膝の上に乗せてあれやこれやと兄たちの話をしていた。特に話す事もなく、黙っていてはむつが気まずくなると思ったのだろう。西原や京井の事も話ながら、時折2人も会話に加わり、むつも首を傾げたり驚いたりしながら、それでもちゃんと話を聞いていたようだった。
1時間くらい話をしていただろか。冬四郎の声が子守唄になっていたようで、むつはふぁふぁと欠伸をしては、目尻の涙を拭ったりしていた。冬四郎はあえて、寝るかどうかを聞かずにゆっくりと話を続けていた。そのうちに、うっつらうっつらとむつが船をこぎ始めた。そして、いつの間にかむつは、くぅくぅと寝息を立て始めた。
「…やっと寝てくれた」
冬四郎は小声で言うと、むつをベッドに寝かせると肩まで布団を引き上げた。身動ぎをしたむつだったが、目を覚ますような気配はなかった。
「何か、気まずいっすね」
「そうですね。でも、むぅちゃんはもっと気まずく思ってるでしょうから」
気疲れしたのか西原と京井は、はぁと息をつた。冬四郎も溜め息をつくと、椅子に座り西原の買ってきた緑茶をごくごくと飲んだ。