6話
少し微妙な顔をしたむつは、冬四郎と繋いでいる手を見て、顔を見た。
「…お兄さん?」
「うん、何か…嫌だな。お兄さんって、そんなしおらしいタイプじゃなかったのにな」
西原と京井も、うんうんと頷いていた。だが、これでむつの様子がおかしかった理由も分かった。冬四郎はそれでも、笑みを絶やさずにむつを見ていた。そして、こつんっと額を押し付けた。むつは嫌がるように、首を振っていたが本心ではないようで恥ずかしそうに笑っていた。
「良かった」
「え?」
思わずといった感じで冬四郎が言うと、むつは額を押し付けられたまま冬四郎を見上げた。
「あ、いや…笑ってくれたからさ。それに、やっとちゃんと喋ってくれたからな」
むつはそう言われると困ったように、曖昧な笑みを見せてまたうつ向いてしまった。冬四郎、西原、京井の事が思い出せないからなのか、むつはよそよそしく、すぐに下を向いてしまう。あまり人見知りをしないタイプだったはずなのに、性格までもが変わってしまったように見えた。
「お、点滴終わったみたいだな」
冬四郎はナースコールを押して、看護師を呼ぶと点滴を外して貰った。先程、針を外してしまった時にも来てくれた看護師で、ちゃんと終わった事を確認すると、むつの頭を撫でた。そして、点滴台を片付けようとしている看護師に、西原がこそっと何かを耳打ちすると、看護師は何も言わなかったが、こくっと頷くと、早く寝なさいとだけ言って出ていった。