6話
「俺じゃ話にくい?嫌なら言わなくても良いからな。けど、言いたくても言えないなら…どんな事でもいいから、言ってごらん?」
一言、一言、ゆっくりと子供に言い聞かせるように言うと、むつはこくりと頷いて、そのまま冬四郎の肩に額をぽすんっと預けるようにしてもたれた。
「今夜はもう寝るか?疲れてるだろ?」
「…寝ない」
かすれた声だったが、ようやくむつが喋ると、冬四郎は明らかにほっとしたような表情をした。むつは咳払いをすると、すうっと息を吸い込んではぁーと長くゆっくり吐き出した。
「あの…あの…ごめんなさい」
「ん?何がだい?」
「んー…」
むつはまた黙ってうつ向いている。冬四郎は何も言わずに、むつが自分から言うのを待っていた。軽く握っていた手に少しだけ、力をいれて言ってごらん、と促した。むつは言いにくそうにしていたが、ぐりっと額を押し付けるとはぁと溜め息をついた。
「分からない…誰なのか、けど知ってる気がする」
「…自分の事が?」
むつはゆるゆると首を振った。シーツの上に散らばっている髪が、擦れてかさかさと音を立てた。
「なら…俺の事が?」
こくりと頷いて、むつは返事をした。




