6話
「顔色悪いなぁ。腹減ってそうだよな?今は何にも持ってないし、朝までは我慢してくれな」
西原はにこやかに話し掛けているが、むつは興味がないのか、聞いているか分からないような顔をしている。流石に、何の反応も示さない事に西原も不安になったのか、むつの顔を覗き込んだ。
「むつ?どうした?」
むつは困ったように少し首を傾げた。まだ乾ききっていない髪が、ぺったりと頬に張り付いている。不安そうに、うつ向きがちなむつの様子を冬四郎と京井が心配げに見ていた。むつが何も言わないとなると、西原も困ったように冬四郎を見た。冬四郎は椅子から立つと、ベッドに腰掛けた。
「気分でも悪いのか?」
冬四郎が頬に貼り付いた髪の毛を取ってやり、耳にかけてやると嫌がるようにむつは身を引いた。ぎゅっとペットボトルを握りしめ、さらにうつ向いてしまった。
「ここは、病院だし。もう大丈夫だぞ?どうした?何かあるなら、遠慮なく言ってくれて良いんだからな」
な、と優しげに言うと、冬四郎はちらっとむつの手を見た。両手首には包帯が巻かれている。前に会った時よりも、手首もほっそりとしている気がしていた。
むつは顔を上げて、何かを言いたそうにしているが、何も言わずにまた顔を伏せてしまった。はっきりしない態度に、冬四郎は違和感を感じていた。目覚めた時に、ここはどこかと小さな声でたずねてから、声を発してはいない。西原が水を渡した時でさえも、礼も何も言わなかった。