319/542
6話
「…むつ?」
重たそうに頭を持ち上げ、むつは冬四郎の顔を見ていた。冬四郎も京井も寝起きです、といった感じのぼんやりしたむつが何を言うのかと、じっと見守っていた。だが、むつが口を開く前にとんとんっとドアをノックされ、冬四郎も京井もびくっと肩を揺らした。
「どうかしましたか?」
顔を覗かせたのは、年配の看護師だった。京井が説明をすると、看護師はくすっと笑って、腕ではなく手の甲に針を入れ直した。痛がりもせずに、針と管をむつは見ていた。
「もう少しで終わりますからね。我慢して、このままにしておいてね」
看護師は優しげに言うと、すぐに出ていった。それと入れ違うように、西原が戻ってきた。
「何かあったんですか?今、看護婦さんが…お、むつ。起きたか?おはよう」
ついでに飲み物を買ってきた西原は、ベッドの上にペットボトルを置いた。
「何か飲むか?どれが良い?」
むつはこくりと頷いて、水を指差した。西原は水を取ると、蓋を開けてからむつの手に持たせてやった。むつは一口飲むと、ふぅと息をついた。口の端から、溢れた水を西原がにこにこしながら拭ってやっていた。