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5話
「わがままなうえに、欲張りだな」
背中を完全に背もたれにつけ、反らすようにして椅子を軋ませながら、冬四郎が言うと、男は否定もせずに頷いた。
「あ、それで…次の手は?分かってるのか?」
「いや…内容は分からないが、またむつを使うだろうな。弱味になるのは、むつだけだろうからな。弱味になってるのか分からないがな」
男は冬四郎の方を見た見て、そう言った。そして、ゆっくりと立ち上がった。話は終わったとばかりに出ていこうとする。
「あ、待て。聞きたい事が2つある。お前、名前は?呼びずらいぞ、名無しじゃな。それから、むつに使われてる薬ってやつは副作用とかないのか?」
男は悩むように、西原をみていた。
「名前か…むつには、リンって呼ばれてる。それから、副作用はある。だが、人によってどんな副作用が出るのかは分からない。何もないやつも居れば、中毒のようになるやつもいる」
「女の子みたいな呼ばれ方されてますね」
人の事を言えませんが、と京井は笑った。
「あの家系は、ネーミングセンスがな…」
呟くように言うと、男は出ていった。