5話
「…全てを善しとは思わない。それに実際、俺にはそこまでの能力は備わっていないからな。確かに、訓練はしているからある程度の妖なら殺せる。俺に備わっているのは鎮める力と浄化の力だ」
「鎮める?」
西原がタバコをもみ消し、コーヒーを飲み首を傾げた。どう説明したら良いものかと、男も首を傾げていた。
「怒り狂ってるむぅちゃんを湯野さんが落ち着かせてる感じを想像したらいいと思いますよ」
京井が助け船を出すように言うと、西原はぽんっと手を打って納得した。容易に想像がついたのだろう、冬四郎は微妙な顔をしている。
「大変な役回りだな」
同情するかのように西原が言うと、男はふっと仮面の下で笑った。喧嘩腰だし、物の言い方は上からだが、そんなに悪いやつではないかもと、西原は思い少し親近感をわいてきていた。
「それで、何で薬を使ってまで…そうまでしてむつを従わせたいんだ?」
「こういう力は、あとから身につくものじゃない。血統みたいなものだからな、だんだんと薄くなるし誰しもが引き継ぐとは限らない。力を持つ者は少なくなっていく…そんな中、むつみたいに力がある者が居れば引き入れたくなるのだろうな」
「お前たち…お前のいる組織のような物は、むつみたいな力を持ってるやつの集団か」
「そうだ。昔からずっとずっと続いてきている組織だ。だが、むつのような攻撃系の力はやはり多くはない…だから、尚更1度、手元に置けたむつを手放すのは惜しいだろうな」