1話
颯介のいれてくれたコーヒーをすすっていると、すぐ隣に座っていた京井が紙袋をどんっと机に置いた。
「差し入れです。食事もなさってないと思いましたので…召し上がってくださいね」
「そろそろ、向こうの2人も起こしますね」
京井が紙袋から4段もの重箱を取り出すと、颯介がくすっと笑いながら山上と片車輪を起こした。寝起きがいいのか、山上はすぐに起きてやってくると、京井に丁寧な挨拶をしていた。仲が悪そうなイメージだったが、意外とそうでもないのかもしれない。
準備が良いのか紙皿と割り箸も持参した京井は、それらを並べていく。そして、初対面の片車輪とも挨拶をしていた。どちらもお互いが、妖だと分かっているのか、気安げな雰囲気だった。
山上と片車輪が、京井の持ってきた弁当をつついていると、ノックが聞こえた。返事も待たずにドアが開き、男2人が入ってきた。1人はきちっとスーツを着た柔和な雰囲気の篠田直弥だった。そして、もう1人は疲れた顔をして、ネクタイも外している西原駿樹だった。
「おはよう、悪いな朝早くから。京井さんが差し入れくださったんだ…一緒にどうだ?」
山上がそう言うと、西原も篠田も困ったような顔をしたが、そこはさすがに落ち着いたもので空いている椅子に座った。
「随分、のんびりしてますね。むつさんの安否確認が出来たって事ですか?」
「いいや。けど、焦っても仕方ない。先ずは飯食って、話をしようかと思ってな」
山上はちらっと冬四郎を見た。箸を持とうともせずに、ぼんやりとコーヒーをすすっている。




