1話
エレベータが開くと、背丈が高く肩幅もがっちりとある男が、ゆっくりと薄暗い廊下に出た。角を曲り歩いていくと、目的の場所の前で、男が壁にもたれて立っているのに気付いた。
「あ、社長。おはようございます…どうしたんですか?そんな所で。入ったら良いじゃないですか」
「お、湯野ちゃん。おはようさん。いや、開いてないんだ。俺も今日は鍵忘れちまってよ」
「開いてない?むっちゃんまだ来てないんですか?珍しい…」
湯野と呼ばれた男、湯野颯介は鍵を開けた。社長と呼ばれた男、山上聖はドアノブに手をかけると、ゆっくり開けた。そして、中に入るとさっと室内を見渡した。室内は薄暗く、しーんとしている。誰かが居る気配はない。
「やっぱり、まだみたいですね」
後から入ってきた颯介は、電気をつけると自身の机に鞄を置いた。
「あいつ、休みか?」
「いえ…あ、時間が出来たら休み取るとは言ってましたけど。それなら、連絡か書き置きくらいあるはずですよ」
「なら、遅刻か?」
山上は颯介の後ろにある、ホワイトボードに目を向けた。日付の横の欄には特に何も書いてない。
「ま、良いか。今日は何にも予定入ってないもんな。たまには、遅刻くらいさせてやるか」
「そうですね。ここ最近は忙しくて、帰りも遅い日が続いてたみたいですし」
「だな。起きたら連絡くるな…昼過ぎても起きないみたいなら電話してやるか、そのまま公休扱いにしといてやるか」
「そうですね」
颯介は柔らかな笑みを浮かべると、奥にあるキッチンに入っていった。




