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5話
男がドアノブに手をかけ、出ていこうとすると近寄った冬四郎が、引き止めた。
「次の手は何だ?お前、何か知ってるなら…?」
冬四郎は男の腕を掴んでいたが、何を思ったのか腕を持ち上げると、袖をずるっと下ろした。
「何、が…あった?」
「………」
男の腕から、とろっとした血が流れていた。引っ掻き傷なのか、切られたのかは分からないが、ぱっくりと皮膚が切れていた。黒い服に手袋をしていたし、京井に対してした事にしても、そんな怪我を負っているような風には見えなかった。
冬四郎はぐいぐいと男を引っ張り、無理矢理椅子に座らせた。そして、キッチンの方から救急箱を持ってきて、どんっも机に置いた。祐斗が買ってきた消毒液を男の腕に、どぼどぼとかけて脱脂綿で拭うと傷薬を塗り込み、くるくると包帯を巻いていく。黙々と手当てをする冬四郎を男は、じっと見ているだけだった。
「西原君」
投げられた消毒液のボトルを受け取った西原は、血まみれになったマフラーを外すと、消毒液をかけた。
「喧嘩してる2人がどっちも怪我人ですか…」
呆れたように言いながら、西原は京井の腕に包帯を巻いていく。