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5話
「それで…警察の方はどうだ?他に何か掴んだ事とか動きは?」
冷めたコーヒーを飲みながら、山上の出ていったドアを見ていた冬四郎が、西原の方に顔を向けた。西原は何もないと首を横に振った。
「そうか…いったい俺たちは、何を相手にしてるんだろうな。それさえも分からないな」
「いえ…それは、聞けますよ」
ずっと立っていた京井が、すいっとドアの前に立つとゆっくりとドアを開けた。開けられたドアの前には、黒い服に身を包んだ、仮面の男が立っていた。いつから、そこに居たのか全く気付かなかった冬四郎と西原は驚いていた。
「…耳がいいな。犬め…あいつも俺に気付いて出ていったな。嫌われたもんだな」
「頑張っても好ましくは思えませんよ?お入りになられますか?」
男と京井の低く押し殺した声は、冬四郎にも西原にも聞こえてはいなかった。
ちらっと京井に視線を向けただけで、男は何も言わずに事務所に入るとドアを閉めた。