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5話
「大丈夫だろ…それより、むつが何されても隠してた日本刀を簡単に渡すわけにはいかない。渡しても、むつが戻ってくる気がしない…」
「かもしれませんけど…」
「機会を待つ…お前、俺が平気でいれると思ってるか?兄貴もだけど、京井さんだって…平気じゃねぇよ」
冬四郎の疲労の浮かんだ表情と溜め息まじりの声を聞き、西原は微かに頷くしか出来なかった。
「そう、ですよね…すみません。あの、それで警視正の偽者をしてた男は?現れてないんですか?」
「むぅちゃんの様子を探るみたいな事を言って…まだ現れてませんね」
その男の事をあまりよく思ってないのか、京井にして珍しく、ややひんやりとした口調だった。
「無いものと思いましょ」
「そうですね。けど、居場所が絞れたらありがたいんですよね…今度はヘマしませんから」
「京井さんも…なかなか怖いですね」
西原が苦笑い混じりに言うと、京井はにっこりと微笑んだのみだった。何も言わない辺り、自信がある証拠のように思え頼もしい。